【学校長コラム】 新しい景色

画像1
サッカー・ワールドカップカタール大会が閉幕した。日頃はJリーグよりプロ野球の結果を気にするような私でも、歓喜する人々やスタンドに揺れる色とりどりの国旗の映像等を連日のように目にすれば、おのずと気持ちも高ぶるもの。結局、日本戦に至っては深夜・早朝にもかかわらずテレビの前に釘付けとなってしまった。

大会結果は周知のとおりだが、私はメディアなどが頻繁に用いた「新しい景色」という言葉に様々なことを考えさせられた。森保監督も取材に対し、「ベスト16の壁を破れず、新しい景色を見ることはできなかったと言われるかもしれないが、ドイツやスペインというワールドカップで優勝した経験があるチームにも勝てるという新しい景色を見せてくれた。」と、この言葉を用いて日本サッカーの前進を強調していた。

教育に関連づけるなら、子どもたちがそれぞれの新しい景色を見られるよう、その環境を整えることは大人の重要な役割だと考える。一人一人の年齢によっても、それまでの経験によっても見せようとする景色は違うとはいえ、少なくとも次のステップに一歩踏み出す勇気を抱かせるのは、親であり教師である場合が多い。これまでに出会った多くの子どもたちを思い返してみても、小さなことであってもその成長を認められてきた子、たとえ失敗しても励まされてきた子は、いつでも戻れる場所があるとの安心感を抱いているためか、新しい景色を見るための挑戦を自ら続けていたように思う。

本校で重視する思考力・表現力の育成についても、発達の段階に応じて何を考えさせるのか、誰に、どんな方法で表現させるのかを教師が工夫することは、子どもたちが新しい景色を見られるようにする環境づくりに他ならない。身近な生活圏の課題からSDGsなど世界的課題への発展、教室内の同級生への発表から市内、県内他校児童生徒への発表の経験などを通して、子どもたちはそれまで知らなかった世界へとその関わりを広げていく。

先日、小中高生の調査研究に助成する「第25回げんでん科学技術振興事業」において、本校が小学校の部で大賞を受賞した。本校には給食で出た生ゴミを堆肥化する処理機があり、理科の授業で堆肥を使って植物を栽培・観察するという教育計画やその実践が認められたもの。県庁で開かれた表彰式には4年生の代表児童が出席し、学習成果のプレゼンテーションを行った。県教育長をはじめとした関係者の大人たち、中学校・高校の部のお兄さんやお姉さんたちなどを前にして、実に堂々とした発表を披露することができた。新しい景色を見た子どもたち。これからもその歩みを進め、さらに広い世界へと羽ばたいてほしいと願うとともに、少しでも多くの子どもがこうした経験をできるよう引き続きその環境を整えていきたい。

もちろん、スポーツを通して見えてくる新しい景色もある。先日、担任を通して取手市新春マラソン大会への参加を呼びかけた。市内には足の速い子どもがたくさんいる。校内持久走大会の在り方を検討する中、興味のある子どもには他校の子どもと競える場を紹介することで、より広い世界で自らの走力を高めようとする意欲を向上させてくれることに期待しているところだ。実は、子どもたちに一歩踏み出す勇気を抱いてもらうため「校長先生も参加する」と宣言してしまった。年末年始の不摂生だけが完走への不安材料だ。

【学校長コラム】 危機管理マニュアル

画像1
二十四節気の「大雪」を過ぎ、次第に寒さが厳しくなってきたとはいえ、子どもたちはとても元気。今日の業間休みも、サッカーや鬼ごっこに興じるなど、頬を真っ赤にしながら走り回る子どもたちを校庭のあちらこちらで見かけた。そんな姿を眺めていると、こうした平穏な日々がいつまでも続くことを願うとともに、仮に危機が迫った際、この子たちを守り抜くことに対する責任の重さとその決意を強く抱くことになる。

地震や竜巻、集中豪雨といった天災にとどまらず、不審者侵入や伝染病発生など、学校管理下において想定される危機は少なくない。当然、どんな危機が発生したとしても最優先すべきは子どもの生命・安全の確保であり、そのためには保護者や地域の皆様、関係機関との連携も含め、学校全体としての組織的な対応が必須となる。もちろん緊急の場面では個々の教師がその場において最も適切と考えられる措置を迅速に執ることとなるが、日頃から危機管理の基本原則を共通理解した上で身につけておかなければ、そうした対応も難しくなる。

その共通理解に欠かせないものが危機管理マニュアルであり、本校においても危機対応の場面毎に分類した50数ページにわたる資料を整備している。教職員はこの資料を常に手の届くところに置くとともに、機会ある毎に目を通したり、定期的な研修を行ったりして緊急の場面に備えている。一方、マニュアル自体を常に見直し、改善を図っていくことも欠かせない。実際、今年度も既に水害発生時の対応やバス利用時の人数確認方法などの修正を加え、バージョンアップを重ねている。

先日は、(株)社会安全研究所の首藤由紀所長に来校していただいた。本校の危機管理マニュアルを第三者の視点から点検していただき、見直しや改善に向けた指導・助言を受けるためである。首藤氏は、国の事故調査委員や多数の児童が津波の犠牲となった石巻市立大川小学校の事故検証委員会事務局等を務められるともに、文科省発行の「学校の『危機管理マニュアル』等の評価・見直しガイドライン」の執筆にも携わられた防災対策の専門家。事前送付した本校のマニュアルについても、場面毎に懇切丁寧なアドバイスを頂戴した。今すぐできることから始めるため、早速、教頭を中心に改善作業に取りかかっているところである。

当日は、本校職員や市内小中学校管理職を対象とした講演会も開催した。大阪教育大学附属池田小学校児童殺傷事件、大川小学校津波被災事故における教職員の対応等を時系列で振り返り、悲しい事件・事故を二度と繰り返さないためにはどうすべきなのかを私たちに熱く語りかけていただいた。犯行直前に職員が犯人とすれ違っていた池田小、震災2日前の地震の折に津波対策が話題となっていた大川小。いずれも事件・事故を防ぐチャンスがあったことを、私たちは教訓として深く胸に刻む必要があることを痛感させられる講演であった。

関東地方は明日も晴天の予報。澄み渡った青空のもと、休み時間の校庭は子どもたちの笑顔にあふれることだろう。そうした場面においても、私たちは「危なくないかな?」「大丈夫かな?」と考え続けながら子どもを見守ることのできる教職員であり続けたい。
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31